初めまして
皆さんは映画を見ていて「この映画はストーリーが良いな」もしくは「この映画の脚本はだめだな」と感じた事はありませんか?
しかしその脚本の何がどう良いのか、あるいは悪いのかを聞かれるとうまく言葉にできない人も多いでしょう
それもそのはずで脚本の事を理解したり自分で脚本を書けるようになるためにはたくさんの事を勉強しなくてはなりません、そうやって知識を身に着けたプロの脚本家でも良くないシナリオを造ってしまう事は珍しくありません、それぐらいどんな脚本が良い脚本かを理解する事は難しいのです
ではプロでもない一般人が脚本の良し悪しについて全く理解できないかというとそういうわけでもありません、実は多くの映画、特にハリウッドの大作映画の脚本は基本的に全て同じ構成になっています
それこそが今回紹介する三幕構成です、この三幕構成を理解する事でその脚本の良し悪しがある程度分かるようになります、なぜなら上手くいっていない脚本は三幕構成が出来ていないいないことが多々あるからです
そしてこの三幕構成はある程度理解する分にはそれほど難しくありません
そこで今回はこの三幕構成とはどんなものかを実例を出しながら出来るだけ簡単に解説していきたいと思います
三幕構成とは何か

ではさっそく三幕構成について説明していきましょう、そもそも三幕構成とは何かですが結論から言うとハリウッド脚本の基本フォーマットでストーリーを三つの幕(パート)に分ける構成です
三幕構成の概要

三幕構成は第一幕、第二幕、第三幕の三つの幕に分かれそれらは1:2:1の割合で分けられます、またそれぞれの幕は一幕(状況設定)二幕(葛藤、対立)三幕(解決)の役割があります、余談ですがこの三幕構成は日本の雅楽が発祥で能や浄瑠璃でも使われる構成である「序破急」に似ています
この三幕構成を最初に提唱したのは「ゴッドファーザー」などの脚本に参加したアメリカの有名な脚本家であるシド・フィールドさんという方です、彼の書籍である「Screenplay」には三幕構成とシナリオについて詳しく書かれています
それではそれぞれの幕ではどういう風にストーリーを進めるのか一幕ごとに分けて詳しく解説していきたいと思います
第一幕

まずは第一幕です、第一幕では主に状況設定が語られ例外もありますがだいたい30分前後であることが多いです、具体的な説明に入る前に重要な三つのワードを紹介したいと思います、それは「セットアップ」「インサイティング・インシデント」「第一ターニングポイント」です
一見難しそうですがそれぞれ単語の意味はそれほど難しくはないので安心してください
それではこの三つのワードを中心に第一幕について解説していきたいと思います
セットアップ

まず状況設定の説明として最初にセットアップと呼ばれる工程があります、このセットアップでは主人公を中心にメインキャラクター達の性格・関係性などの紹介や世界観の説明またストーリーの目的など映画を見るうえでの必須情報が語られます、それから伏線などが登場することも多いですね
セットアップはだいたい10分ほどであることが多くこの時間で観客にある程度の基本情報や前提を知ってもらうわけですがそれと同時に最初の場面なので観客が飽きないような工夫が必要な場面でもあります
よくある方法として冒頭で本筋のストーリーとは直接的にはあまり関係のないアクションシーンを入れたりまたは本筋のストーリーが起こるきっかけとなった事件のシーンを入れたりすることで観客に飽きられずに状況設定の説明するなどがあります
例を挙げますと前者なら「グラディエーター」の冒頭の合戦シーンは主人公マキシマスの人物像が分かるようになっています、また後者だと「ロード・オブ・ザ・リング」では冒頭で一つの指輪の歴史について語られます、これら以外にも観客に飽きさせない工夫を凝らした映画は数え切れないほどあります
このようにセットアップは基本情報を紹介しつつ観客の第一印象を決める部分なので非常に重要だと分かっていただけたかと思います
インサイティング・インシデント

セットアップで必須情報の紹介が終わったら次はいよいよストーリーを動かし始めます、ここでは物語が大きく動くきっかけとなるやや小さめの事件が起こります、これをインサイティング・インシデントと言います
基本的に物語の本筋となるストーリーが動き出すのは次で紹介する第一ターニングポイントからなのですがそれが起こる原因がこの部分でえがかれます
具体例を挙げますと「アイアンマン」の主人公トニー・スタークがテロリストに誘拐されるシーンや「プレデター」で主人公たちのチームがゲリラ基地を制圧するシーンなどがあります
「アイアンマン」ではこの事件がきっかけでトニーはパワードスーツを開発してアイアンマンになっていきますし、「プレデター」ではゲリラは殲滅しますがそこでプレデターに目を付けられ一人ずつ殺されていく展開になります
このようにインサイティング・インシデントでは主人公を次の展開に強制的に進めるための衝撃的な出来事が起こりそれが良いことにしろ悪いことにしろここから主人公は日常から非日常へと足を踏み入れることになります
第一ターニングポイント

第一幕もそろそろ終わりに差し掛かってきました、基本情報を紹介してメインストーリーのきっかけとなる事件も起きたならこのあたりからいよいよ本篇が始まります、その出来事を第一ターニングポイントと言います
第一ターニングポイントはプロットポイントⅠなどとも言いこの事件をっきかけに本当のストーリーが動き出しもう後戻りはできなくなります、また映画のあらすじを見ても主にこれ以降の展開を紹介していることが多いです、そして第一ターニングポイントの役割はそれだけではありません
それを説明する前に具体例を挙げてみましょう、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でのタイムトラベルして過去から戻れなくなるシーンや「ターミネーター」で主人公のサラ・コナーがターミネーターに見つかり襲撃されるシーンなどがあります
実は第一ターニングポイントではメインストーリーが始まるだけでなく同時に主人公の目的やお話のゴールもここで明確化されているのです、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でいえば元の時代に帰れるかどうかであり「ターミネーター」であれば殺人マシンから逃げきれるかです
ちなみに主人公が達成したい目的やそれを成し遂げられるかどうかをセントラル・クエスチョンと言います
このように第一幕では主に状況設定が描かれ二幕目以降での展開の布石を打つパートなのです
第二幕

続いては第二幕です、先ほど説明した通りここから本当のストーリーが始まります、第二幕では主に葛藤・対立が描かれます、また第二幕は一幕や三幕よりも尺が長いことが多くだいたい二倍ほどあります
それでは説明に入る前に再びキーワードを挙げたいと思います、第二幕のキーワードは「ミッドポイント」と「第二ターニングポイント」です、この二つもそれほど難しい言葉ではないので安心してください
それでは概説していきましょう
ミッドポイント

第二幕は前半と後半に分けることができるのですが前半では主に第一ターニングポイントで提示された目的を達成するために主人公は行動を起こす展開が続きます、そして多くの場合それらは比較的順調に進むことが多くちょうど映画の真ん中あたりで観客が一番興味を持っていたことに一つの答えがでる展開も多いです
しかしそこで現れるのがこのミッドポイントです、ミッドポイントの役割は一瞬問題が解決するかに思われた場面で主人公を新たな危機に直面させ観客の関心の本質をずらさずに物語の推進力を上げることです
具体例を挙げましょう、例えば「タイタニック」では主人公ジャックがローズと結ばれるがその直後にタイタニック号の針路に氷山が発見されます、また「エイリアン」では謎の生物に寄生された宇宙船の乗組員のケインは一度回復したかに思われますがその後彼の体内からエイリアンが誕生してしまいます
「タイタニック」でも「エイリアン」でも本来の目的に加えこのミッドポイントでさらに生きるか死ぬかの問題が加わることで物語がより緊迫感が増す展開になっていきます
このようにミッドポイントでは物語を一旦弛緩させその後一気に加速させる折り返しのポイントであると分かっていただけたかと思います
第二ターニングポイント

第二幕の後半の最後に訪れるのは第二ターニングポイントです、第二ターニングポイントは第一ターニングポイントと同じように主人公を次の展開に導きます
ここでは基本的に主人公にさらなる危機が訪れそれにより重大な決断を余儀なくされる展開が多いです、そしてその選択によりクライマックスで主人公が覚醒する流れに繋がっていく事も多々あります、また物語の推進力を上げるためにタイムリミットが設定されることもよくあります
ここでも具体例を挙げたいと思います、例えば「マトリックス」での主人公ネオが捕まった船長モーフィアスの救出を決断するシーンがあります、また「エイリアン2」では主人公リプリーがエイリアンに連れ去られた少女ニュートの救出を決断するシーンもこれに当たります
どちらのシーンでも主人公の勇気ある決断により大きな危機が訪れますがそれによりクライマックスで主人公は成長を果たします、ネオは救世主として目覚めリプリーはエイリアンに対するトラウマを乗り越えます
またどちらの作品でもタイムリミットが設定されています、「マトリックス」ではモーフィアスがエージェント達にアクセスコードを自白する前に救出せねばいけません、また「エイリアン2」ではエイリアンの巣がある原子炉が爆発する前にニュートを救わねばなりません
このように第二幕では少しずつ物語を加速させつつクライマックスでの主人公の成長のきっかけもえがかなければなりません
第三幕

最後は第三幕です、第三幕では解決がえがかれます、遂に物語が終わりに向かうわけですね
それでは第三幕のキーワードを紹介したいと思います、第三幕のキーワードは「クライマックス」と「レゾリューション」です
ではそれぞれ解説していきます
クライマックス

クライマックスとはその名の通り物語の最終盤に訪れるイベントです、ここで主人公は最大のピンチを迎えそれによって最も大きな葛藤に決着がつくか否かがえがかれます
ここで重要なのは決着がつく事が大事なのであり必ずしもハッピーエンドである必要はないという事です、また主人公は絶対に勝利しなければいけないわけでもありません
例えば「猿の惑星」では主人公が猿の惑星から地球に帰れるのかが最大の焦点ですがクライマックスで猿の惑星だと思っていた星が実は地球だったという衝撃的な内容で決着がつきます、また「ロッキー」ではチャンピオンアポロとの試合で最終ラウンドでも決着がつかず結局判定で敗れてしまいますが重要なのは試合に勝つことではなく最後まで戦い抜く事ができるかどうかなので最大の葛藤要素には決着がついているのです
そして基本的にはこのクライマックスによって主人公は生まれ変わり物語は完結します
レゾリューション

最後にレゾリューションの解説をしたいと思います、このレゾリューションとは解決という意味でここではまだ解決してなかった問題がすべて片付きます、また盛り上がり切ったお話の勢いを最後に落ち着ける役割もあります
実はこのレゾリューションは必ず入れる必要はなくあえてレゾリューションを省いてる作品もたくさんあります、ですのでこれがないからと言って脚本的に悪いわけではありません
またホラー映画などではレゾリューションの後にもう一度衝撃的なシーンを入れる事であえて後味の悪い感じで終わらせるパターンもあります
以上で第三幕の解説を終わります
まとめ
今回は映画脚本の基礎、三幕構成について解説しました
最後まで読んでいただきありがとうございます、かなり長文になってしまい申し訳ありません
別の記事も読んで頂けると幸いです
それではまた!
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