はじめまして
ディズニー作品が好きな方であればライオンキングを知っている人は多いと思います、数あるディズニー作品の中でも特によくできた名作の一つですよね
なぜライオンキングがここまで面白いのか、あるいは評価されヒットしたのか、気になった方もいるのではないのでしょうか
しかし本やネットなどにはそれを詳しく解説してあるものは少ないのが現状です、そこでなぜこの作品が優れているのかを一人でも多くの方に理解してもらいたいと思いこの記事を書きました
ライオンキングの評価が高い理由の一つとして脚本の出来が素晴らしいことあげられます、なので今回はライオンキングがなぜ名作であるのかを特に脚本にフォーカスして実際に使われているテクニックなどを取り上げながら四つのポイントを中心に詳しく解説していきたいと思います
この記事を読めばライオンキングのテーマ何なのか、また作り手は何をえがきたかったのか、それらを人に説明できるくらい詳しく知ることができるでしょう
動物たちの王国、プライド・ランド。その王として尊敬を集めるライオンのムファサとサラビの間に次期王となる息子シンバが誕生した。シンバ誕生の儀式に大勢の動物たちが集まりシンバを称える。一方、シンバの叔父かつムファサの弟(敵)で次期王に選ばれなかったスカーは儀式を欠席し、王になる事ができない自分の立場を呪っていた。
ライオン・キング‐wikipedia
以下ネタバレありです
三幕構成

まず一つ目のポイントは三幕構成についてです
ライオンキングの脚本に使われているテクニックの一つに三幕構成があります
そもそも三幕構成とは何か
三幕構成と聞いて「何それ?」と思った方も多いと思います、しかしそれほどむずかしいものではありませんのでご安心ください
というわけでまず最初にこの三幕構成について簡単に説明したいと思います
三幕構成とは
- ハリウッド脚本の基本フォーマットのことでお話を第一幕、第二幕、第三幕の三つの幕(パート)に分ける構成のことです
- それぞれの幕は(状況設定)(対立、葛藤)(解決)の役割があり三つの幕の割合はだいたい1:2:1となっています
- それぞれの幕の間にはターニングポイントと呼ばれるポイントがあり、ここで主人公に大きな決断を迫りストーリーを異なる方向へ転換させる何かしらの出来事が起きます
ものすごくざっくり説明するととこんな感じです
さて以上を踏まえてライオンキングのストーリーを思い出していただくときれいにこのフォーマットどおりに作られていることがわかると思います
ライオンキングの三幕構成
まず第一幕に当たるのは「オープニングのシーン」から「ムファサがシンバに死んでいった王たちが星になったことを話すシーン」まででしょう、このシーンまで見ればライオンキングの世界観や状況設定がだいたい分かるようになっています
次に第二幕ですがこれは「スカーがムファサの殺害をたくらむシーン」から「シンバがヒヒのラフィキに導かれ星空に父の幻をみるシーン」あたりまででしょう、第二幕ではシンバが自分の過去とどう向き合うかの葛藤が主にえがかれています
最後に第三幕ですがこれは「シンバがプライドランドに戻るシーン」から「エンディング」までですね、すべての困難が解決し物語が終わりに向かいます
これらのシーンの時間を計ってみると第一幕がだいたい25分まで、第二幕はだいたい68分まで、そこからエンディングまでが88分なのでおおよそ1:2:1の割合になっています
さらに一幕目と第二目の間には「ムファサの死」があり、二幕目と三幕目の間には「ナラとの再会」があります、これらのイベントによってストーリーは大きな転換点を迎えていきます
このようにライオンキングの脚本はきれいに三幕構成になっており基本に忠実で丁寧なストーリー造りをしていることが分かったかと思います
以上が一つ目のポイント三幕構成についてでした
シンバのメインプロット

二つ目のポイントはシンバのメインプロットについてです
ここからはより具体的な脚本の流れを解説していきたいと思います
プロットの説明
本題に入る前に見出しにあるプロットとは何かについて簡単に説明します、しかしここではあえて詳しく解説はしません、なぜならプロットの概念が非常に分かりにくいからです
プロットとは何かというとストーリーを因果関係で並べて要約したものです
…と言われてもよく分からないですよね
なのでここでは思い切って「プロット=脚本」ぐらいの認識で読んでいただけたらと思います
正確には少し違うのですがプロットは詳しいく説明すると長くなる上にこれからやる解説そのものにはそこまで関係ないので今回はあえて詳しい説明ははぶきたいと思います
プロットの本質部分
それでは本題に入っていきたいと思います、まず脚本を理解する上で大切なことはプロットの本質部分を明確にすることです、より具体的に言うとライオンキングは主人公が何をする話が脚本の中心に設定されているかを見極める事が重要だということです
これを聞いて「そんなの簡単だよ、シンバが王様になる話でしょ」、とか「シンバがスカーに復讐する話でしょ」、なんて考えた方もいるかもしれません、たしかに間違いではないかもしれませんがそれらはプロットの本質部分とまでは言えないでしょう
ではライオンキングのおけるプロットの本質部分とは何か、結論から言うとそれはシンバが過去を受け入れる話です
どういう事なのか詳しく話していきたいと思います
シンバの葛藤
多くの脚本では基本的には主人公が抱えている葛藤あるいは対立している何かを乗り越えることで成長していく過程をえがいています、もちろんすべての脚本がそうではありませんがそういう脚本が多いのは事実でしょう
また先ほどの三幕構成の説明にも書いているとおりメインの葛藤や対立は第二幕でえがかれることがほとんどです
これを踏まえたうえでライオンキングのストーリーを思い出していただくと第二幕でえがかれているシンバの葛藤は「父を殺してしまった罪悪感」であるとわかります(実際に殺したのはスカーですがシンバはそのことを知りません)
シンバは第二幕の前半で父を殺してしまった罪悪感に耐え切れず自分の罪の意識から文字通り逃げ出してしまいます
ライオンキングの脚本の上手いところはそこからうじうじしたシンバを見せ続けるのではなくここで新たな展開を用意するところです、この次の展開で登場するティモンとプンバァによってハクナ・マタタという新しい考え方をシンバは学びます
このハクナ・マタタとはスワヒリ語で「問題ない」の意味らしく、作中でも「悩まずに生きる」という同じような意味合いの言葉として使われています
このハクナ・マタタの登場によってシンバは自分の罪を忘れることで一時的な安寧を得ることができます、しかしこれは過去から目を背けているだけであり根本的には何も解決していません、そののちに幼馴染のナラと再会したことで王になるためにプライドランドに戻るよう迫られシンバの心の中に再び罪の意識が沸き上がり激しい葛藤に苛まれます
つまり一旦かりそめの幸せを得てしっまたばっかりに今度はさらにそれを捨てて過去と向き合わなければいけないというより激しい葛藤が生まれる構造になっているというわけです
過去と向き合うシンバ
ではシンバはどのように自分と向き合うのでしょうか、それは水面に映った自分を覗き込むという形で表現されます
ナラとの再会後シンバが水面に映った自分を覗くシーンが三回あります
一回目は「愛を感じて」(Can You Feel The Love Tonight)の曲が流れる場面で再会したナラと愛を深めていくシーンです、このシーンでシンバは水を飲む時に水面に映った自分を見ますがすぐに目をそらしてしまいます、つまりまだ自分自身と向き合えていません
二回目はシンバの前にヒヒのラフィキが現れるシーンです、このシーンではシンバは橋の上で寝そべった状態で水面を覗きます、これはまだ真っすぐ自分を見れないという表現でしょう
三回目はラフィキに導かれ泉を覗き込むシーンです、このシーンで初めてシンバは自分自身としっかり向き合います、ここでついにシンバは自分の過去と向き合いそして受け入れることができたのです
その証拠にこの後のシーンでシンバは泉に映った自分の中にかつて王だった父を見出します、このシーンの意味としましては自分は本来王となるべき存在であったと再認識したということでしょう
さらに夜空に父の幻を見るわけですがこれは死んでいった王たちが星となって見守っているという前半で語られた伏線が回収されるシーンでもあります
このシーンの後シンバは「風向きが変わったようだ」と言います、その後シンバはスカーと戦いにプライドランドに戻るわけですからこの言葉はストーリーそのものにも当てはまるわけです
クライマックスの演出
最後に過去を受け入れることができたシンバがその後どうなっていったのかを解説したいと思います
クライマックスでシンバは二つのピンチに追い詰められます、一つ目はみんなの前で自分がムファサを殺してしまったことを告白しなければならなくなったこと、二つ目はそのことをスカーに責められたことです
しかし成長したシンバはこれらのピンチをすべて乗り越えて見せます
ではこの二つの場面でシンバの成長がどう表されているかを特に演出の部分にフォーカスして解説していきましょう
まず一つ目ですがこのシーンでシンバはスカーに「ムファサは誰のせいで死んだのかみんなに教えてやれ!」と迫られます、それに対しシンバは「僕だ…」と答えるわけですがこのシーンをよく見ると「僕だ…」と答えると同時にシンバは一歩前に踏み出しています、地味ですが演出的に非常によくできています
次に二つ目の場面ですがスカーにムファサを殺したことを責められ崖に追いつめられるシーンです、作中でスカーも言っていますがこの場面は前半部分でスカーがムファサを殺したシーンにそっくりな構図になっています、なぜ作り手はあえてそうしたのか、それはシンバがムファサを越えたこと表すためです、シンバはムファサと違い崖から落とされるどころか自力では上がり逆にスカーを押さえつけます
このような形でシンバの成長は表現されているわけなのですがどちらも演出的によくできていることがわかると思います
その後追い詰められたスカーは自滅しシンバは新しいプライドランドの王になることですべてが解決し物語が終わりに向かいます
以上が二つ目のポイントシンバのメインプロットのについての大まかな解説でした
命の環

三つ目のポイントはライオンキングに登場する命の環とは何かについてです
ここからは本作のより深い部分であるテーマについても語っていきたいと思います
命の環の意味とは
ライオンキングにはテーマがいくつかありますがその一つが命の環です
そう考える理由ですが一つはオープニングで流れている曲の名前が「サークル オブ ライフ」(Circle of Life)でありこれは日本語に訳すと命の輪という意味であること
二つ目は命の環について作中でわざわざ説明するシーンが設けられていることです
命の環とは具体的にどういうものか作中でムファサが説明してくれています、それではムファサのセリフの一部を引用してみましょう
「命あるものは全てが関わりを持ち釣り合いを保っている(中略)我々が死ねばその体は草となる、その草はシマウマが食べる、命あるものが環となり永遠に時を刻む」
簡潔にまとめるとすべての生命は何らかの形でつながっていて大自然ではそのサイクルを永遠と繰り返してきたという事でしょう
しかしこれがテーマですと言われて違和感があった方もいるのではないでしょうか、というのも本作ではその命のサイクルを具体的にえがいているシーンがあまりないからです、さらに先ほどのセリフを言ったムファサ自身実際に死んでしまうわけですがその後に訪れるのは命の再生ではなくプライドランドの崩壊です
一巡するストーリー
ではなぜ命の環がライオンキングのテーマの一つと言えるのでしょうか、それはライオンキングの脚本の構造を詳しく調べると分かります、実はライオンキングには前半と後半で似たようなシーンが何度か登場します、まずそれらをまとめてみましょう
《前半》
- オープニング
- シンバの儀式の後に雨が降る
- スカーがムファサを崖から落とす
- 故郷を出る時茨の茂みを進む
- 故郷を出た後砂漠で倒れている…など
《後半》
- エンディング
- シンバが王になるシーンで雨が降る
- スカーがシンバを崖から落とそうとする
- ラフィキに導かれジャングルの中を進む
- 故郷に戻るため砂漠の中を走る…など
これらのシーンを見ていくといくつか分かることがあります、一つは似たようなシーンでも前半と後半では意味や印象が全く違う事、次にほとんどのシーンが前半と後半で登場する順番が逆になっていること、さらに細かいことを言えば茨を進む時とジャングルを進む時とでは構図は似ていますが進む向きが真逆になっています、またライオンキングにはオープニングとエンディングの最後に二回タイトルが登場します
つまりライオンキングの脚本はスタートから一周して再びスタートラインに帰ってくる構造をとっていますちょうど輪の形のように、それもただ戻ってくるのではなく主人公が大きく成長しさらに次の世代にバトンをつなぐというつくりになっています、つまりこの構造が命の環を表現しているのです
このようにライオンキングはテーマを脚本にまで落とし込んでいる非常によくできたつくりになっています
以上が第三のポイント命の環についてでした
ライオンキングのメインテーマ

四つ目、最後にライオンキングのメインテーマを解説したいと思います
ここからはいよいよ作り手たちの視点から本作を読み解いていきましょう、彼らにとってライオンキングとは何だったのでしょうか
過去と向き合あった作り手たち
まずここでいうメインテーマとはどういうものかですが、具体的に言うとライオンキングという作品を通して作り手が最も伝えたいメッセージは何かです
この作品が伝えたいメッセージそれは「過去は変えられないが過去と向き合い乗り越えることで道が開けるという事です」そしてこのメッセージは何も私たち観客にのみ向けられたものではありません、実はライオンキングという作品そのものにも対する言葉でもあります
ディズニーアニメーションには二つのお家芸があります
一つがお姫様がメインのプリンセス映画、そしてもう一つが動物がメインのアニマル映画です
いうまでもなくライオンキングは後者のアニマル映画です
しかしライオンキングが製作された当時は「リトルマーメイド」や「美女と野獣」などのいわゆるプリンセスものがディズニーのメインだった時代でアニマル映画は本命の企画にあげられることはありませんでした、実際ライオンキングの製作人も当時はまだ主力でない二軍ばかりで構成されています
そのような状況だったからでしょう彼らはある志を掲げます、それはかつてディズニーで栄華を誇っていた動物アニメーションの復活です、つまり彼らはディズニーアニメーションの過去と向き合い乗り越えようとしたわけです、だからこそ先ほどのメッセージをテーマとしたのでしょう、要するに作り手たち自身が共感できるテーマを脚本に盛り込んだのです
そしてかれらの高い志と努力は実を結ぶことになります
ライオンキングのメガヒット
ライオンキングは公開されるとそれまで成功したどのプリンセス映画をもはるかに超えるメガヒットを記録します、そして当時のアニメーション史上最高興行収入を達成さらにアカデミー2部門受賞と興行的にも批評的にもこれ以上ない成功をおさめます
彼らはディズニーの過去と向き合うことにより自らの道を切り開いたのでした、ちょうど自分の過去と向き合ったシンバのように
以上が第四のポイントライオンキングのメインテーマについてでした
まとめ
今回はライオンキングについて詳しく解説してみました
ライオンキングの脚本やテーマがいかに優れているか皆さんにもわかっていただけたかと思います
長文に最後までお付き合いいただきありがとうございますとてもうれしいです
よろしければ別の記事も読んでいただけると幸いです
それではまた
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