「ロッキー」ネタバレ解説 本当の主人公はロッキーではない(その2)

ロッキーシリーズ

初めまして

今回は映画「ロッキー」の脚本についてのネタバレありの解説(その2)です、この記事では前回に続き後半部分の脚本を読み解いていきたいと思います、なので前回の記事をお読みでない方はまずはそちらをご覧ください

>>「ロッキー」ネタバレ解説 本当の主人公はロッキーではない(その1)

この記事を読めば「ロッキー」の脚本がいかに優れているかやどのような構成で作られているかが分かるようになっています、またこの作品の本当の主人公は誰なのかについても今回で明らかにしたいと思います

またこの記事では少し脚本の専門的な知識を用いる場面があり少し難しく感じるかもしれませんがそのつど説明しますのでご安心ください

それでは解説を始めたいと思います、以下ネタバレありです

三幕構成のおさらい

早速解説に入っていきたいところですがその前に念のため前回紹介した三幕構成の概要をもう一度紹介したいと思います、必要ない方は飛ばしてください

>>第二幕 後半

  • 三幕構成とは
    1. ハリウッド脚本の基本フォーマットのことでお話を第一幕、第二幕、第三幕の三つの幕(パート)に分ける構成のことです
    2. それぞれの幕は(状況設定)(対立、葛藤)(解決)の役割があり三つの幕の割合はだいたい1:2:1(2時間の映画だと30分:60分:30分ぐらい)です
    3. 次の幕が始まる前にターニングポイントと呼ばれるイベントがあり、ここで主人公に大きな決断を迫りストーリーを異なる方向へ転換させる何かしらの出来事が起きます

三幕構成についてはさらに詳しくまとめたページを作ったので、興味のある方は以下のリンクをクリックして読んでみてくださいね

>>映画脚本の基礎 三幕構成について簡単に解説

それでは「ロッキー」の後半の解説に入りたいと思います

第二幕 後半

第二幕の後半では主にロッキーとミッキーの関係がえがかれます、ここで一旦ストーリーの大まかな流れをまとめてみましょう

  • 場面はロッキーとミッキーの口論から始まります、このシーンでなぜミッキーがロッキーにつらく当たってきたのかが語られます、ミッキーはロッキーが才能がありながら真剣にボクシングに向き合わないことに怒っていたのでした
  • その後ロッキーにアポロとの試合のオファーが届くとそれを聞きつけたミッキーがロッキーのもとを訪れマネジャーにするよう頼みます、ロッキーは急に手のひらを返してきたことに激怒しますが最終的には和解してミッキーにマネジャーを依頼します
  • それから本格的にロッキーがボクシングのトレーニングを始めます

この一連のシーンからはたくさんの事が見えてきます、それを一つずつ解説しましょう

ラストチャンス

最初に分かることはこの作品の登場人物の多くが年齢的に今回が最後のチャンスだという事です、それはミッキーがロッキーに自分をマネージャーにするよう頼む場面での彼の「俺はもう76のおいぼれだ」というセリフから分かります

実際76歳はいつ死んでもおかしくない年齢でトレーナーとして一花咲かせたいミッキーにとってはラストチャンスです、ミッキーだけではありませんロッキーも30歳でボクサーとしてはもう若くないですし、またエイドリアンも30歳で結婚できる時間はあまり残されていません

このように「ロッキー」では年齢というタイムリミットが設定されている事でお話に推進力を持たせているわけですがなぜこのような脚本にしたのかには理由があります、それはこの作品の脚本を執筆し主演も務めた当時のシルベスター・スタローンがまさに同じ状況だったからです、当時の彼も30歳で俳優として芽が出ず年齢的にもラストチャンスだったのです

つまりロッキーとは当時のスタローン自身をそのまま投影したキャラクターでもあるのです

初のトレーニングシーン

ミッキーと和解した後すぐにこの映画で初めてのトレーニングシーンが登場します、ここで注目してほしいのはこのシーンが夜明けだという事です、実は「ロッキー」の前半は夜のシーンばかりでここで初めて日の出のシーンになりその後は日中のシーンばかりです

おそらく夜のシーンはロッキーやほかの主要キャラクターの沈んだ気持ちを表しており、日の出のシーンはロッキーが本気で目標に向かって努力し始めたことでみんなの心も救われようとしていることを表しているものと思われます、ちなみにポーリーが出る場面だけは夜だったり暗いシーンが多いのですが確かに彼だけはあまり報われてる感じがありません

またそれまでは酒やたばこをやめなかったロッキーがトレーニングを開始してからは一度も手を出さなくなります、また食生活も改善しだしており、その最初の場面があの有名な生卵を飲むシーンです

第二ターニングポイント

第二幕の最後は第一幕同様主人公に危機が訪れそれが原因で重大な決断が迫られその結果物語が次の展開へと移る出来事が起きます、前回の記事でも説明したターニングポイントですね

しかし前回同様ここでもおかしなことが起きています、というのも第二幕の前後、時間でいえば90分前後あたりにはロッキーが危機が訪れたり決断を迫られているような場面は特にありません、あえてこの90分あたりで危機的状況のシーンを上げるとすればそれはポーリーがロッキーとエイドリアンにキレるシーンでしょう

ポーリーは今の仕事をやめたくてガッツォに紹介して集金の仕事をさせて欲しいといいます、そのためにロッキーと妹をくっつけたりロッキーに肉をあげたりしていたわけですが、ロッキーからすれば取り立ての仕事なんていいもんじゃないし今の仕事でも生活できるんだから紹介したくないわけですね、そしてそのことにポーリーは腹を立てているわけです

このシーンで印象的なのはエイドリアンが初めて兄に対して言い返すところです、また彼女は自分から家を出ることを決断します、それまでの内気で兄に逆らえなかった彼女からすれば考えられないほど大きな成長と言えるでしょう

ここまで見れば分かる通り第二幕のターニングポイントはエイドリアンがメインになっているのです

クリスマスキャロル

またこの場面でロッキーとエイドリアンは映画を見ていますが、この映画は「クリスマスキャロル」という作品で、守銭奴で自分の事しか考えなかった主人公が3人の幽霊との出会いで改心して周りの人の事に良い事をするようになるという内容の映画です

ちょうどダメな主人公が善い行いをすることで自分だけでなく周りも救っていってるという「ロッキー」のストーリーと重なるような内容になっていますね

ちなみに作中で見ている映画が実は本編の内容と関係あるというこの演出はのちのスピンオフ作品「クリード チャンプを継ぐ男」などでも使われています

では第二幕はここで終わります、次はいよいよ第三幕の解説をしていきたいと思います

第三幕

最後の第三幕ではクライマックスがえがかれます、ここで主人公が最大のピンチを迎えそれによって一番の葛藤要素に決着がつきます

アポロ対ロッキー

この第三幕の初めに印象深いシーンがあります、それは試合の前日になかなか眠れなかったロッキーがエイドリアンと話す場面です、この時ロッキーは「15ラウンドたってゴングが鳴ってもまだ立っていられたら、ただ満足だよ、ごろつきじゃないって証明できる」と言っています

このセリフから分かる通り実はここで初めてこの映画の具体的なゴールがロッキーの口から語られています、つまりこの作品の最大の葛藤要素は世界チャンピオンに勝てるかどうかではなく最後までたおれずに立ち向かい続けられるかどうかなのです

実際にこの試合では最終ラウンドでも決着がつかず結局判定で敗れてしまいますが、最後まで倒れずに戦い抜く事ができたのでこの映画はハッピーエンドであるといえるのです

なぜアポロ・クリードという名前なのか

ちなみに先ほどのエイドリアンとのセリフは原文だと[with Creed]つまり「クリードとともに立っていられたら」となっているのですが、この「creed」とは信念という意味もあり「信念とともに立っていられたら」と言ってるようにも聞こえます

また先ほども紹介した通り「ロッキー」ではどん底の人たちは夜のシーン、そうでない人は日中のシーンで登場することが多くなっているように太陽にまつわる印象的な演出があります、なのでこの映画で一番上の存在としてえがかれるアポロは太陽神の名前をもとにしているのです

アポロ・クリードという名前はとても良く考えられていますよね

クライマックス

映画の最後では再びエイドリアンの成長がえがかれています、試合が始まる前はロッキーが殴られる姿を見るのが怖くて控室で待っていると言っていたエイドリアンでしたが、試合が進むにつれ控室に響くどよめきにいてもたってもいられず意を決して飛び出していきロッキーを見守ります

この映画では物語の序盤でエイドリアンが鳥かごの鳥世話している場面があります、実はあれはエイドリアン自身の現状を表しているのです、彼女は作中でも自分を押し込めており兄に嫌がらせをされると自分の部屋に閉じこもってしまいます、つまりこの映画における部屋とは彼女にとっての殻なのです、そして最後にその殻を自らの意思で破ることで彼女は自由をつかむのです

本当の主人公

ここまで読まれた方はもう誰が真の主人公か分かったと思います、そうです「ロッキー」の本当の主人公はエイドリアンなのです

脚本とは基本的に主人公が葛藤や対立を乗り越えて新しい自分になる過程をえがきます、そしてこの作品をよく見ると映画の冒頭とラストで一番内面が成長しているのはロッキーではなくエイドリアンです、また脚本のターニングポイントもすべて彼女の話となっています

ラストシーンではエイドリアンの最後の成長が見られます、エイドリアンは最初ずっと地味な格好をしていましたがロッキーと付き合ってからは常に赤い服を着ています、なぜなら赤とはロッキーを象徴する色だからです、彼が試合で着ていたトランクスやガウンも赤色が入っています、つまりこの時彼女はロッキーの色に自ら染まっているのですね

しかしラストシーンで変化が見られます、このときエイドリアンが唯一身に着けている赤い物は帽子ですが試合終了と同時にリングに向かう彼女は人ごみの中でその赤い帽子を落としてしまいます、しかし彼女はそれを拾いません、ロッキーに「帽子は?」と聞かれてもそれには答えず「愛してる!」と言います

このシーンでついに彼女は完全に自由になりロッキーのためじゃなく自分のために自分の思いを言えるようになれたのです

以上で「ロッキー」の解説を終わります

まとめ

今回は前半と後半に分けて映画「ロッキー」の解説をさせていただきました

本作の本当の主人公が誰なのかこれで分かっていただけたかと思います

最後まで記事を読んでいただいてありがとうございます

よければ別の記事も読んで頂けると嬉しいです

それではまた!

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