映画『激突』ネタバレ解説 スピルバーグが過去を清算する物語

スピルバーグ作品

初めまして

今回は『激突』についてネタバレありで解説していきたいと思います、この記事を読めばこの作品がどうして過去を清算する物語であるのかやスピルバーグ監督が何を描こうとしたのかが分かるようになっています

またこの記事はあらすじや制作秘話などを紹介するものではありませんのでご注意ください

それでは早速解説を始めたいと思います、以下ネタバレありです

三幕構成

今回の『激突』はハリウッドの脚本でよく使われる構成の三幕構成をもとに解説していきたいと思います

そこでまずは三幕構成について簡単に説明します

  • 三幕構成とは
    1. ハリウッド脚本の基本フォーマットのことでお話を第一幕、第二幕、第三幕の三つの幕(パート)に分ける構成のことです
    2. それぞれの幕は(状況設定)(対立、葛藤)(解決)の役割があり三つの幕の割合はだいたい1:2:1(2時間の映画だと30分:60分:30分ぐらい)です
    3. 次の幕が始まる前にターニングポイントと呼ばれるイベントがあり、ここで主人公に大きな決断を迫りストーリーを異なる方向へ転換させる何かしらの出来事が起きます

三幕構成についてはさらに詳しくまとめたページを作ったので、興味のある方は以下のリンクをクリックして読んでみてくださいね

>>映画脚本の基礎 三幕構成について簡単に解説

それではこの三幕構成をもとに『激突』を解説していきます

第一幕

まずは第一幕について解説していきます、第一幕では状況設定がえがかれます

具体的には主人公のデイビッドは今仕事でハイウェイを走っている事や今回の事件の発端となるデイビットが途中で出会った大型トレーラーを何度か追い越す場面も登場します、またこの第一幕はほとんどのシーンでラジオを聴いています

これらの状況設定の紹介では家に居場所がない父親が強調されて描かれています、一つはラジオで妻に世帯主の座を譲った男の話が流れていることです、もう一つはガソリンスタンドでのシーンです、店員との会話ではデイビッドが家では主ではない事が分かります、さらに奥さんとの電話ではデイビッドは彼女と関係があまり良くない事が伝わってきます、その上またそのような状況になったのはどちらも父親側に原因がある事も説明されます

このようなストーリーと直接関係のないシーンが用意されているのには理由があります、スピルバーグは様々な作品で父親の物語を描いています、実はスピルバーグは少年時代両親が離婚しており父親が自分のもとから去ってしまった事で彼自身深く傷ついたといわれておりその事が彼の作品にも色濃く反映されていると思われます、なのでこの作品は父親に対する復讐物語と捉えることもできるのではないでしょうか

また奥さんとの電話でデイビッドは「話せば喧嘩になる、喧嘩は嫌いでしょ、いや出来ないのか」と馬鹿にされます、この人との対立を避ける性格はデイビッド欠点の一つとして設定されますがこれが後々ストーリーに大きく関わってきます

あとは序盤のラジオの内容で肉で演奏する男が登場しデイビッドがおかしな奴だと笑う場面がありますが、このシーンも後にデイビッド自身が周りからおかしな奴だと思われ始めるという流れを暗示しているのかもしれません

以上が第一幕の解説でした

第二幕

次に第二幕の解説をしていきます、第二幕では対立や葛藤が描かれます、対立とはもちろんデイビッドとトレーラーの対立も描かれますがそれだけでなくデイビッドと周りの人々との対立もあります、なぜならデイビッド自身もけして人格者ではないからです

実は第二幕でトレーラーの異常行動だけでなくデイビッドの問題行動も描いています、まずはそれぞれまとめてみたいと思います

トレーラー

  • デイビッドの車を追い越してノロノロ運転やブロックする
  • 対向車と衝突させようとする
  • 猛スピードで追いかけまわしてぶつけてくる
  • 列車が走ってる線路に押し出そうとする
  • デイビッドを電話ボックスごとひき殺そうとする
  • デイビッドが老夫婦に助けてもらおうとするのを妨害する など

デイビッド

  • カフェで頼んだサンドウィッチにケチャップがついてないことにぶつぶつ文句を言う
  • 確証もないのにトレーラーの運転手と思われる男を脅そうとする
  • 車で壊した柵を直さずそのまま立ち去る
  • 動かなくなったスクールバスを助けるように頼まれるが嫌がる
  • 車のバンパーがバスの下に潜り込むと思った通りだと文句を言う
  • スクールバスの子供たちをトレーラーから守ろうとするが変人扱いされる など

こうして見比べてみるとデイビッドもけして良い人ではない事が分かります、またどちらも周りから見たら異常者ですがそれを指摘されるのはデイビッドだけです

例えばカフェでトレーラーの運転手と勘違いした男を脅した時は店の店主に病気だと言われます、またスクールバスの子供たちをトレーラーから守るため車内に戻そうとした時は運転手にあんたは異常だよと言われます

このようにデイビッドはトレーラーのせいというよりむしろ自身の行いのためにどんどん孤立していき逃げ場を失っていきます、つまり第二幕では第一幕で紹介した人と争いを避ける事以外のもう一つの欠点が提示されています、それはデイビッドがあまり人の気持ちを考えない自分勝手な行動が多い事です

そしてこれはデイビッドに与えられた選択肢でもあります、物語で彼は二つの相反する欠点がありそのどちらかを克服する事で成長する事が出来るようになっています、第三幕では彼がこの二つの欠点のどちらかを乗り越え物語が決着を迎えます

以上が第二幕の解説でした

第三幕

最後に第三幕の解説をしていきます、第三幕では解決が描かれます、より具体的に言うとデイビッドの成長によりトレーラーとの対決に決着がつきます、しかしこの作品はその解決がハッピーエンドとして描かれていません、それでは詳しい説明していきたいと思います

物語の終盤逃げ切ることが難しいと悟ったデイビッドはトレーラーとの対決を決意します、彼はトレーラーを崖のそばに誘い込み車をUターンさせトレーラーに向かって走らせ衝突寸前に飛び降ります、トレーラーは衝突により発生した煙と炎で前が見えずそのまま崖下まで落ちてしまいます、こうして生き残ったデイビッドは初めこそ喜ぶもののその後呆然と佇んでしまいなぜか日が暮れそうになっても崖下に向かって石を投げ続けるシーンでこの映画は終わります

なぜこの映画は主人公が勝利したのにバッドエンドのような終わり方なのでしょうか、それはスピルバーグがデイビッドを父親をモデルにしていることが関係していると思われます

おそらくデイビッドが放心状態になってしまったのは自分が人を殺してしまった事に気づいたからではないでしょうか、ずっと石を崖下に投げているのもトレーラーの運転手は気絶しているだけですぐに目を覚まして出てくるはずだと思いたいからかもしれません

つまりデイビッドが取り返しがつかない罪を犯した場面で物語を終わらせたことで、父親がけして許されない話を描きたかったのではないのでしょうか、このラストによりスピルバーグの父親に対する復讐は果たされたのかもしれません

『激突』のもう一つのテーマ

ここまで何度か『激突』は父親への復讐の物語であると紹介してきましたがこの作品のテーマはもう一つあります、それは人は他人にも思いやりを持つべきだという事です、第二幕で説明した通りデイビッドには人との争いを避ける事と他人に対する親切心がないという二つの欠点がありそのどちらか一つだけを選び成長する事が出来るようになっています

そして彼が選んだのは人との争いを避けがちな弱点を克服しトレーラーと対決する事です、しかしその選択により彼はバッドエンドを迎えてしまいます、ではもう一つの方を選んでいたらどうなったのでしょう、実はデイビッドには何度かそのチャンスがありました

例えばカフェで犯人捜しをしている時トレーラーの運転手と思われる男に話しかける時初めはビールを奢って見逃してもらおうとします、しかし舐められたくないからなのかその男を脅してしまい結果的に周りから異常者だと思われてしまいます、またスクールバスの運転手に助けを求められる場面でも結局バスを見捨てて自分だけ逃げだします、その後の展開でデイビッドも周りに助けを求めますが彼自身がやったようにに逃げられてしまいます

もし人に親切にしていてらトレーラーの運転手は捕まらなかったかもしれませんが周りが親身になって助けてくれたかもしれません、しかしそれを選ばなかった事によって彼は人殺しになってしまいました、ですのでこの作品のもう一つのテーマは他人にも思いやりを持つべきだと言えるのです

スピルバーグの過去との決着

ここまで紹介したようにこの映画には二つのテーマがありますがよくよく考えるとこの二つには矛盾が起きています、なぜなら『激突』では自分をひどい目に合わせた相手に復讐するデイビッドを悪く描いていながらもう一方で監督自身が父親への復讐を果たす物語になっています

もしかしたらスピルバーグは自分への戒めとしてこの映画を撮ろうとした部分もあったのかもしれません、つまり父を恨む自分に対して復讐では何も生まれないと納得させる事で自分の過去と決着をつけようとしたのではないでしょうか、真実はスピルバーグ自身にしか分かりませんが少なくともこれ以降彼は父親への復讐を描いた物語はほとんど作ることはありませんでした

以上が第三幕の解説でした

まとめ

今回は映画『激突』について解説していきました

この作品がなぜスピルバーグの過去を清算する話だと言えるのかが分かって頂けたかと思います

最後まで記事を読んでいただいてありがとうございます

よければ別の記事も読んで頂けると嬉しいです

それではまた!

コメント

タイトルとURLをコピーしました